思ったよりも時間がかかってしまいました。
今回は2021年8月17日にリリースされたCIX「’OK'Prologue:Be Ok」より「WAVE」の話をしたいと思います。
CIX
2019年7月23日デビューの5人組。画像左から、ヒョンソク ヨンヒ ペジニョン BX スンフン
前作のCinemaに続いてWAVEをタイトル曲にしたことは、ただ”清涼コンセプトに路線変更した”という表現では収まらない意義のある歩みであると思います。
また、25日0時に出たトレイラーを見る限り次のカムバックは清涼コンセプトではないと思います
ではMVからご覧ください。
(最後の10秒に流血シーンがあります。この部分を見なくても曲は全て聴けますので、苦手な方は3:30までで視聴を止めてください)
前作でLike a Cinemaと歌ったCIXさんが、次のフルアルバムでWAVEを歌ってくれたことは私の中で大きな支えとなりました。
このブログでは歌詞の方にフォーカスを当てていきます。(MVは前作から続く考察が多くて触れられなかった)
映画になれない渦中の私
前作のCinemaも今作のWAVEも、映画や海といったテーマになぞらえて人生を歌っている曲です。しかし、同じ題材の2曲で決定的に違うところがあります。それが日々についての視点です。
Cinemaは、現在過ごしている日々が過去になっていく様に焦点を当てています。
一方WAVEは、現在過ごしている日々、そして進んでいく先にある未来に焦点を当てています。
Cinemaには、〈時には不安で/時には揺らいでも/それさえも一編の映画になるよ〉〈時には分かれ道で(その道で)/迷った日も/僕を笑わせるEpisodes/なんてことないよ〉といった歌詞があり、それは諦観と希望であるということを前回のブログで触れました。
この諦観と希望が素直に育つには、「対象の出来事が現在の自分とは別の場所に居ること」が前提条件にあるのではないかと思います。
この「別の場所」というのは過去のことを指します。辛い苦しいといった感情は、現在の自分と切り離されているから好きなように縮めて薄めて形作ることができます。では、最中にいる私のことはどうすれば良いのでしょうか。
世界の様相が大きく変わってから1年半、そんな時期にWAVEはリリースされました。
この状況は一体いつまで続くのか、いつになったら過去の話になるのか。現在進行形かつ普遍的な状況がゆえに、苦しみは溶けて馴染んでしまう。
自らが渦中にいるというのに、いつ終わるかも分からないというのに、どうやって映画にできるというのでしょうか。映画のワンシーンに集約するにはあまりにも長く、あまりにも何もなさすぎた。
しかし日々は過ぎていき、否応なく人は年を重ねていきます。今が過去になってくれないのなら、未来へ足を踏み入れるほかありません。
波は、風が吹いた後の波紋によって生まれます。どこかから新しい風が吹き、波の動きが変わるのを待つというのも方法の一つです。ただ、波に立ち向かう時に自分の背中から起こるであろう風に、私たちはもっと期待しても良いのではないかと思います。
Go beyond the wave
우리만의 Pace
僕たちだけのPace
거센 운명을 헤치고荒い運命を振り払って
서로를 닮아가는 Flow互いに似ていくFlow
몇 번이고 되뇌고 되뇌며 나가 또 한 걸음
何度も繰り返し繰り返しながら出て行く また一歩
더 몰아쳐, 날 몰아세워도
もっと打ち寄せて、僕を責めたてても
끝나지 않을 sailing
終わらない sailing
内なる海、重なる海
先ほど、"WAVE"は人生を海になぞらえていると述べました。この考え方を基にすると、人の数だけ人生があるように、人の数だけ海があるということになります。
거친 손길같은 푸른 물결
荒々しい青い波
날 이끌곤 또 멀리 던져
僕を引き寄せては遠ざける
잠깐 숨 고를 틈도 없는 채
少しの息を整える暇も無いまま
깊숙이 불안으로 물든 Underwater
深く不安に染まったUnderwater
この〈深く不安に染まったUnderwater〉という歌詞から、自分という船の中核には感情があって、そこには人生の海と同期した心の海が存在するんだろうなという想像をしました。
その海は個人に帰属するもので決して侵されて良いものではないのですが、社会に出て人と関わる以上どこかで海は重なっていきます。それぞれの持つ海が重なることが連続し、それを俯瞰で眺めると世の中に見える、といったイメージでしょうか。
빠지지 않고 나 버티는 건
溺れずに持ち堪えてるのは
이건 분명 혼자가 아닌これは明らかに1人じゃない
Runnin' runnin' yeah
내 모든 걸 부수고 부서진 뒤 얻은 깨달음
僕の全てを壊して壊した後に得る気付き
We should be together better
これらの歌詞は「みんな頑張っているから自分も頑張ろう」「みんな辛いよね」という意味では無く、「海が重なり、自分と他者の所在、傷や孤独に気付く瞬間」を指しているのではないかと思います。
それぞれの海が重なった時、溺れまいと耐える相手が見える。自分が傷ついていたことが分かる。孤独が重なれば、もうそれは孤独では無くなるのではないでしょうか。せめて重なった海の間だけでも、手を取り合っていられたらと願わずにはいられません。
가장 높이 친 파도 위를 넘어
一番高い波の上を越えて
발을 맞춰 달려가다 보면足取り合わせて走ってみると
수평선 저 너머가 보여水平線の向こうが見える
손을 맞대어 중심을 잡고서
手を合わせて重心をとらえて
해일마저 타고 노는 Surfer*1
高波さえも乗って遊ぶSurfer
우린 절대 멈추지 않아僕たちが止まることはない
不確かに煌めく明日
몰아친 파도 끝에 결국 닿을
打ち寄せる波の果てに辿り着く
자유로운 내일을 믿어
自由な明日を信じる
길었던 방황 끝에 결국 이룰
長かった彷徨いの果てに叶う
우리다운 내일을 믿어
僕たちらしい明日を信じる
初めの章でも挙げましたが、この歌詞こそがWAVEの根幹となっているのではないでしょうか。
"自由な明日"や"僕たちらしい明日"は、輝かしい響きを持ちながらも限りなく抽象的なものです。形の無いものは、捉えたと思ってもすぐに見失ってしまいます。絶えず見え隠れするその様は光が点滅しているようで、私たちの目により眩しく映るのだと思います。
WAVEには、上で挙げた歌詞の他にも”信じる”というワードが登場します。
부딪치고 다쳐도
ぶつかって傷ついても
믿고 있어 내 온몸을 적신 청신호
信じている 僕の全身を照らした青信号
긴 밤에도 can't stop it
長い夜でも can't stop it
힘들수록 keep hoping
大変な時ほど keep hoping
보이지 않는 길이
見えない道が
우릴 이끄니
僕たちを導くから
不確かなものを頼りに前に進んでいくことは、滑稽に見えるのかもしれません。しかし、不確かだからこそ打ち寄せる波や彷徨いの行き着く先への望みは途絶えず、顔を上げることができるのではないでしょうか。
不確かで眩しい存在を信じてもがく自分が、今この瞬間確かに存在する。この事実が、最中にいる私をも輝かせて救い出す。それぞれの航海には、いつだって美しさが散りばめられているはずです。
吹いたのは祝福の風
7月25日、 CIXさんが1年ぶりにカムバックすることが発表されました。日程は出ていないものの、8月にカムバックすると。
アメリカツアーの延期やカムバックの延期など、5人にとってこの1年はもどかしいことが多かったのではないかと思います。その間定期的に合同コンサートなどでWAVEを披露していたのですが、歌詞の内容や真摯なパフォーマンスも相まって、現状への鼓舞にも未来への祈りにも映りました。何とも皮肉な話ですが、WAVEはこの1年で紛れもなく彼らの歌になっていきました。
Go beyond the wave
우리만의 Pace
僕たちだけのPace
거센 운명을 헤치고荒い運命を振り払って
서로를 닮아가는 Flowお互いに似ていくFlow
Go beyond the wave
새로워질 Fate
新しくなるFate
몰아친 파도 끝에 결국 닿을
打ち寄せる波の果てに辿り着く
자유로운 내일을 믿어
自由な明日を信じる
来月から始まる活動も、前に進み続ける彼らにとっては通過点なはずで、私もそれを望んでいます。ただ、今後彼らに幾度となく訪れるであろう"打ち寄せる波の果てに辿り着く自由な明日"のひとつがすぐそこまで来ていることに、私はどうしようもなく胸が熱くなってしまいます。
空気を取り込みながら届く5人の歌声は、波音のように、あるいは風のように私に響く。こわばった心に風が吹き抜け、水面が穏やかに波打っていく感覚に包まれます。
その風は、日々を生きる私たちを祝福してくれる。長かった彷徨いの日々も、いつかきっと映画のワンシーンになれる。その時現れる地平線の先に、私たちが信じてやまない自由な明日があるのでしょう。